大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)235号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。

1  本件考案の要旨が、審決の認定するとおり、「比較的硬質の合成樹脂発泡体の板状体から成りその表面部分の一部に釘打性乃至接着性の良好な材料を表面部分と同高に埋め込んで成る、コンクリート住宅用フローリング下地材」にあることは当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第二号証(本件考案の実用新案公報)によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の項には、「出願人はコンクリート住宅における従来の根太組に代る、ネダフオーム(商品名)と称する畳下地材を開発した。この実績にかんがみ、これを和室畳下地材としてではなく、ダイニングルーム、洋間、廊下等の一般フローリングに用いたいという要望が生じた。しかし元来畳下地を対象としていたので、これらの用途に対しては表面仕上げ材の定着性に問題があつた。本考案はこの問題を解決しようとしてなされたもので、仕上げ材の釘打ち、または接着が確実にできるようにした、合成樹脂発泡体によるフローリング下地材を提供しようとするものである。すなわち本考案は、比較的硬質の合成樹脂発泡体の厚板状体から成り、その表面部分の一部に釘打性乃至接着性の良好な材料を表面部分と同高に埋め込んで成る、コンクリート住宅用フローリング下地材にある。」(公報一欄二一行目ないし二欄一行目)と記載して、本件考案の目的とこの目的を達するために前記本件考案の要旨に示された構成をとつたことを明らかにし、その効果として、「このように本考案により始めてフローリング仕上材の下地に合成樹脂発泡材を使用することが可能になる。またこの結果ネダフオームの特長または利点すなわちコンクリートスラブに対する直接敷込みの簡易性、断熱保温性耐湿性、遮音性などを和室以外の室、廊下等においても得ることができ、実用上極めて有利である。」と記載していることが認められる。右ネダフオームが「比較的硬質の合成樹脂発泡体からなり、上面は平坦で、下面にはリブ部分を設けて縦方向及び横方向の通路部分を形成させた相じやくり付の厚板状畳下地材」であることは被告の自認するところであり、前記明細書の記載と成立に争いのない甲第六号証(昭和四五年二月に印刷されたことが当事者間に争いのないネダフオームのカタログ)及び第八号証の一、二(昭和四四年七月二五日発行の業界紙記事)によれば、これが本件考案の出願前当業者間に周知であつたと認めるのが相当である。

以上の事実によると、本件考案は、コンクリートスラブに対する直接敷込みの簡易性、断熱保温性、耐湿性、遮音性に優れた比較的硬質の合成樹脂発泡体の板状体からなるコンクリート住宅用畳下地材が周知であつた技術水準の下で、これを一般フローリング用に用いることを目的とし、そのためには、畳下地材においては畳を下地材に固定する手段が必要でなかつたのに対し、フローリング下地材においてはフローリング仕上材と下地材とを固定する手段が必要となるが、下地材の合成樹脂発泡体の板状体が機械的強度において弱く釘打ちや接着による仕上材の固定に適しないことは良く知られていたことであるから、右板状体の「表面部分の一部に釘打性乃至接着性の良好な材料を表面部分と同高に埋め込」むという構成を採用したものであること、そして、右板状体に右釘打性ないし接着性の良好な材料を埋め込むことについては、本件公報(前掲甲第二号証)の考案の詳細な説明の項の実施例の説明において、「この角材3を厚板状体1の成型時に一体に埋め込むのを好適とする。」(公報二欄一三、一四行目)と記載されているように、板状体を成型した後に埋め込むことも許容されており、埋め込みについての製法的な限定、特徴はなく、右材料が板状体の表面部分の一部に表面部分と同高であるという配置関係を特定した点に本件考案の特徴があることが認められる。したがつて、本件考案を引用例と対比してその進歩性の有無を判断するに当たつては、本件考案の右特徴部分をとらえて対比判断をしなければならないというべきである。

2  この観点に立つて第一、第二引用例を検討すると、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例の四〇頁第一六図及びこれについての「図16はダイヤフオームの寒冷地住宅への使用の例で胴ブチの下に硬質フオームを使用し、表装材の取付けにポリカーボネートの釘を使用している。」との記載によれば、合成樹脂発泡体の表面部分の一部に表面部分と同高に木材が配置された状態において、表装板をその合成樹脂発泡体の表面に取り付けるに当たり、表装板を右木材に釘打ちすることが示されていると認められる。また、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、「表装板が取着せられた合成樹脂多泡体成形品及びその製造方法」にかかる発明が開示されており、この発明は、近時建築材料、家具その他種々の用途に広く使用されている合成樹脂発泡体の成形品は表面まですべて多泡体のみより構成されているが、そのままでは機械的強度が極めて劣弱で僅かの外力で表面が損傷され易いという欠点があつたので、この欠点を解消し適宜材質からなる表装板が強固に取り着けられた合成樹脂多泡体成形品及びその製造方法を提供することを目的とし、審決が審決の理由3後段において認定したとおりの構成を備えた合成樹脂多泡体成形品の発明であること、そして、右成形品においては、断面形状が先細になつている補強材が先細部において表装板の裏面に接し、これを包む形で表装板の裏面に合成樹脂多泡体が右先細部と同じ高さに積層されるものであるところ、右補強材は、「表装板の強度を大ならしめると共に多泡体成形品と表装板との結合の役目をも兼ね備えるものである」(甲第四号証二頁右欄九行ないし一一行目)ことが認められる。

この第一、第二引用例の記載によれば、建築材料に使用する合成樹脂発泡体の上に表面仕上げ材を定着させるために、発泡体の表面部分の一部に釘打性ないし接着性の良好な材料を表面部分と同高に配置した構成は、本件考案の出願前に公知の技術として開示されていたと認められる。右認定に反する被告の反論二2(三)及び二3の主張はいずれも採用できない。

そうすると、本件考案は、比較的硬質の合成樹脂発泡体の板状体からなるコンクリート住宅用畳下地材が周知であつた技術水準の下で、これを一般フローリング用に用いるために必要なフローリング仕上材と下地材との固定手段として、公知の右構成を採用したものであるといわなければならず、この程度のことは当業者がきわめて容易に考え及ぶことのできることと認められる。

3  しかるに、審決は、審決の理由の要点3前段記載のとおり、本件考案と第一引用例記載のものとを比較するに当たり、「本件考案は……工場発泡であるのに対し、第一引用例記載のものは……現場発泡である点で、両者はその目的、構成が相違している。そして、本件考案はこの工場発泡により……第一引用例記載のものでは期待できない効果を奏するものと認める。」と述べ、本件考案の合成樹脂発泡体が工場発泡であることを前提として、これのみをとらえて右の対比判断を行つている。しかし、前叙の本件考案の目的、構成、効果からみて、本件考案の「比較的硬質の合成樹脂発泡体の板状体」がどのような製造方法により、どこで製造されるかについての技術的限定はないと認めるのが相当であり、被告が反論二1で主張する明細書及び図面の記載は右認定を左右するものではない。したがつて、工場発泡であるかないかは本件考案の要旨と無関係のことがらであることが明らかであるから、審決の右対比判断はその前提において誤つているというべきである。そして、審決は右前提において誤つたため、第一引用例に右2に述べた本件考案の特徴をなす構成に対応する技術内容が開示されていることを看過し、また、第二引用例との対比においても、右2に述べた技術内容が第二引用例に開示されていることを看過した結果に至つていることが明らかである。

審決の右の誤りがその結論に影響を及ぼすものであることは、右2に述べたところから自明であるから、審決は違法として取消を免れない。

三  よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。

〔編註〕本件実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

比較的硬質の合成樹脂発泡体の板状体から成りその表面部分の一部に釘打性乃至接着性の良好な材料を表面部分と同高に埋め込んで成る、コンクリート住宅用フローリング下地材。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!